日本語上級者のための日本文學珠玉の小品集
5min2011 JAN 21
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耳無芳一の話 THE STORY OF MIMI-NASHI-HOICHI 小泉八雲 Lafcadio Hearn 戸川明三訳  すぐその翌晩、芳一の寺を脫け出して行くのを見たので、下男達は直ちに提燈をともし、その後を跟けた。しかるにそれが雨の晩で非常に暗かったため、寺男が道路へ出ない內に、芳一の姿は消え失せてしまった。まさしく芳一は非常に早足で歩いたのだ――その盲目な事を考えてみるとそれは不思議な事だ、何故かと雲うに道は悪るかったのであるから。男達は急いで町を通って行き、芳一がいつも行きつけている家へ行き、訊ねてみたが、誰れも芳一の事を知っているものはなかった。しまいに、男達は浜辺の方の道から寺へ帰って來ると、阿彌陀寺の墓地の中に、盛んに琵琶の弾じられている音が聞えるので、一同は吃驚した。二つ三つの鬼火――暗い晩に通例そこにちらちら見えるような――の外、そちらの方は真暗であった。しかし、男達はすぐに墓地へと急いで行った、そして提燈の明かりで、一同はそこに芳一を見つけた――雨の中に、安徳天皇の記念の墓の前に獨り坐って、琵琶をならし、壇ノ浦の合戦の曲を高く誦して。その背後と週囲と、それから到る処たくさんの墓の上に死者の霊火が蝋燭の...

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