日本語上級者のための日本文學珠玉の小品集
2min2011 JAN 21
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耳無芳一の話 THE STORY OF MIMI-NASHI-HOICHI 小泉八雲 Lafcadio Hearn 戸川明三訳  芳一の戻ったのはやがて夜明けであったが、その寺をあけた事には、誰れも気が付かなかった――住職はよほど遅く帰って來たので、芳一は寢ているものと思ったのであった。晝の中芳一は少し休息する事が出來た。そしてその不思議な事件については一言もしなかった。翌日の夜中に侍がまた芳一を迎えに來て、かの高貴の集りに連れて行ったが、そこで芳一はまた吟誦し、前囘の演奏が贏ち得たその同じ成功を博した。しかるにこの二度目の伺候中、芳一の寺をあけている事が偶然に見つけられた。それで朝戻ってから芳一は住職の前に呼びつけられた。住職は言葉やわらかに叱るような調子でこう言った、―― 『芳一、私共はお前の身の上を大変心配していたのだ。目が見えないのに、一人で、あんなに遅く出かけては険難だ。何故、私共にことわらずに行ったのだ。そうすれば下男に供をさしたものに、それからまたどこへ行っていたのかな』  芳一は言れのがるように返事をした―― 『和尚様、禦免下さいまし! 少々私用が禦座いまして、他の時刻にその事を処置する事が出來ませんでしたので』  ...

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