日本語上級者のための日本文學珠玉の小品集
6min2010 NOV 29
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姨捨 堀辰雄 五  こんな事があってからも、女が何かと里居がちに、いかにも気がなさそうな折々の出仕を続けていた事には変りはなかった。が、出仕している間は、いままでよりも一層、他の女房たちのうちに詞少になって、一人でぼんやりと物など跳めているような事が多かった。しかし、何かの折にいつかの女房と一しょになりでもすると、互に話もないのにいつまでもその女房の傍にいて何か話をしていたそうにしていたり、又、相手があの時雨の夜の事をそれとなく話題に上そうとでもすると、慌ててそれを他に外らせようとしたりした。しかし、女はいつかその男が才名の高い右大弁の殿である事などをそれとはなしに聞き出していた。――そうやって宮に上っていても何か落ち著きを欠いている女は、里に下りて、気やすく老いた父母だけを前にしている時は、一層心も空のようにして、何か問いかけられても返事もはかばかしくなかったりした。そうして一向になって何かを堪え忍んでいるような様子が、其頃から女の上には急に目立ち出していた。  右大弁はときどき友達と酒を酌んでいる時など、ひょいとその時雨の夜の事、――それからそのとき語り合った二人の女のうちの、はじ...

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