ある秋の土曜日、一郎少年のもとに、下手くそで間違いだらけの文で書かれた怪しいはがきが屆くところから物語がはじまる。翌日面倒な裁判があり、ぜひ出席してほしいという內容で、差出人は、山貓となっている。一郎少年は、はがきを秘密にして、一人で大喜びする。翌日、一郎は山貓を探しに山へ入る。
深い榧(かや)の森の奧に広がる草地で、異様な風體の馬車別當と會い、はがきを書いたのは彼であることなど話すうちに山貓が登場し、どんぐりが集まってきて裁判が始まる。どんぐりたちは誰が一番偉いかという話題で爭っており、めいめいが自分勝手な理由をつけて自分が偉いと主張するので、三日たっても決著がつかないという。
馬車別當は山貓に媚びるばかりで役に立たず、裁判長である山貓は「いいかげん仲直りしたらどうだ」と體面を保つばかりで、判決を下せないで困っている。一郎は山貓に、一番ばかでめちゃめちゃで、頭のつぶれたようなのが一番偉い、という法話を耳打ちし、知恵をつけて助けてやる。山貓が判決を下すと、一瞬にしてどんぐりたちの爭いが解決し、どんぐりは一箇所に固まってしまう。山貓は一郎の知恵に感心し「名譽判事」という肩書きを與え、はがきの文面を「出頭すべし」と命令調に書き換える提案をして否定されてしまった。
山貓はよそよそしくなり、謝禮として、塩鮭の頭と黃金(きん)のどんぐりのどちらかを選ばせ、一郎が黃金のどんぐりを選ぶと白いきのこの馬車で家まで送ってくれる。黃金のどんぐりは色あせて茶色の普通のどんぐりとなり、そして二度と山貓からの手紙はこなくなってしまう。一郎は、「出頭すべし」と書いてもいいと言えばよかったとちょっと殘念に思うのである。
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一郎 山貓の手紙を親に見せたり友達に相談したりせず、単身で裁判に出かけるなど、自立心が確立された少年である。年齢は明記されていないが、馬車別當へのお世辭から尋常小學校の三、四年生とわかる。道を尋ねたり、馬車別當や山貓との対応もしっかりしており、いざというときは大人から聞いた法話を思い出すなど、かなり利発で機転の利くことが分かる。また、馬車別當がはがきの文や字の下手なのを恥じると世辭を言って慰めるなど、相手を思いやることができ、大人としての分別はほぼそろっている。その一方、異様な手紙を怪しみもせず、無謀なことが大好きで、山貓たちと會話できるなど、野生児としての要素も失っていない。 山貓 陣羽織や裁判用の繻子の服など著込み、葉巻を吸うなど威風堂々としている。客人の一郎には紳士的だが、裁判官としては無能で、それを隠すために、體裁ばかり気にしており、手下やどんぐりには威張り散らす性格である。 馬車別當 山貓の手下。背が低く、片目で、見えない目は不気味で足も曲がって変形しており、半天姿で鞭を持っているという異様な風體の男である。性格は卑屈で山ねこに媚びるばかりで、はがきの書き方か...
一郎 山貓の手紙を親に見せたり友達に相談したりせず、単身で裁判に出かけるなど、自立心が確立された少年である。年齢は明記されていないが、馬車別當へのお世辭から尋常小學校の三、四年生とわかる。道を尋ねたり、馬車別當や山貓との対応もしっかりしており、いざというときは大人から聞いた法話を思い出すなど、かなり利発で機転の利くことが分かる。また、馬車別當がはがきの文や字の下手なのを恥じると世辭を言って慰めるなど、相手を思いやることができ、大人としての分別はほぼそろっている。その一方、異様な手紙を怪しみもせず、無謀なことが大好きで、山貓たちと會話できるなど、野生児としての要素も失っていない。 山貓 陣羽織や裁判用の繻子の服など著込み、葉巻を吸うなど威風堂々としている。客人の一郎には紳士的だが、裁判官としては無能で、それを隠すために、體裁ばかり気にしており、手下やどんぐりには威張り散らす性格である。 馬車別當 山貓の手下。背が低く、片目で、見えない目は不気味で足も曲がって変形しており、半天姿で鞭を持っているという異様な風體の男である。性格は卑屈で山ねこに媚びるばかりで、はがきの書き方か...